課題代表者は放射線宿酔発症には脳内で産生される炎症性サイトカインが関与するとの仮説をたて研究を行ってきた。本年度は放射線と同様に宿酔症状が発症しやすい抗がん剤投与後の体温、行動量、摂餌量の変化に着目し、これら生体反応に対し選択的シクロオキシゲナーゼ(COX)-2阻害剤がどのような作用を有するかを検討し、さらに抗がん剤投与後の脳内(延髄、視床下部)IL-1β、TNF-α、COX-2の遺伝子発現量の変化について検討した。その結果、抗がん剤ドセタキセルによって体温・行動量・摂餌量は大きく低下したが、COX-2阻害剤のNS-398によってこの低下は抑制することができた。また、ドセタキセルによって、延髄・視床下部においてIL-1β、TNF-α、COX-2 mRNAの有意な発現増加が見られた。 この結果を受けて、申請者は自由行動下のラット視床下部内のプロスタグランディンE2が抗がん剤投与によって実際に増加するか否か、マイクロダイアリシス法とELISAを組み合わせて実験を試みた。その結果、宿酔症状が生じる時間帯にプロスタグランディンE2遊離に変化が見られた。これらの結果から、IL-1βやTNF-α産生に伴って、COX-2誘導によるプロスタグランディンE2が宿酔症状発症に起因することが示唆された。行動薬理学・神経科学・分子生物学的手法を用いた実験を通じて、宿酔症状発症における炎症性サイトカインの役割を解明したとともに、宿酔に対する新規治療法の開発を可能にするものであると考えられる。
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