本研究は、単一の電離放射線によって、どのようなクラスターDNA損傷が生成するのか、またその生成過程についての知見を得るために、単色軟X線によってDNA分子中に同時に二個以上生成するイオンの生成時間とイオン種の相関について調べることが目的である。本年度は放射光ビームラインで今後使用するための、飛行時間型イオン質量分析器をオフラインにおける整備を行うことを計画していたが、放射光ビームラインで今後使用するための、飛行時間型イオン質量分析器をオフラインにおいて整備を行った。整備の後、低エネルギー電子線によるDNA薄膜の照射実験を行い、いくつかのエネルギーにおける鎖切断と塩基損傷の収率を求める実験を行った。低エネルギー電子線の飛程が非常に短い(数十nm)ため、実験条件の最適化にはまだ多少時間を要するが概ね実験が終了した。またマルチチャンネルスケーラーやパルス電源の整備を行い、飛行時間測定に向けた実験装置および測定装置の準備が概ね終了した。 さらに放射光施設において、DNA薄膜に対する軟X線照射実験を行い、照射によるX線吸収端近傍微細スペクトルの変化を観測した。得られた情報により、軟X線によってDNA分子にどのような変化が生じるかの知見を得ることに成功した。
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