放射線誘発腫瘍で発現増加を示すことが研究代表者の過去の研究で示されたNRARP遺伝子に注目し、その細胞増殖等に関する機能をin vitroで解析した。また下流の遺伝子発現変化を解析した。具体的には、まず、NOTCH経路を阻害するγセクレターゼ特異的阻害剤がヒト乳癌細胞におけるNRARP遺伝子発現に及ぼす影響を検討したところ、変動しないと考えられる結果を得た。次に、昨年度にアレイ解析で抽出した遺伝子のうち10遺伝子を選択し、定量的RT-PCR法によって、NRARP siRNA処理後の発現変動の再現性を確認した。その結果、再現性は確認され、特にWNT情報伝達系の下流因子であるCCND1と、RBやその複数の相互作用因子の発現低下を確認できた。NRARPを含むタンパク質のウェスタンブロットについて、実験条件を検討した。さらに、フローサイトメトリー法により、NRARP siRNA処理後のヒト乳癌細胞における細胞周期変化及び細胞死の誘導を示唆するデータを得た。ラット乳癌細胞の樹立に関しては、継代可能な細胞を複数得ることができ、凍結保存を行った。以上の結果を踏まえて、査読制の国際学術誌に投稿するための原稿を執筆した。これらの実験結果から、乳癌細胞においてNRARP遺伝子がWNT経路下流のCCND1を介した細胞周期調節により細胞増殖等の重要な役割を担っていることが初めて解明された。NRARPは情報伝達を担う分子であり、重要な発生過程を調節する可能性が高いことから、放射線による乳癌の誘発メカニズムにも重要であると考えられた。
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