本研究における目的は、甲状腺系撹乱化学物質が、遺伝子発現レベルでの甲状腺ホルモン作用に及ぼす影饗を、モデル生物であるアフリカツメガエルを用いて検討することである。前年度までに、水酸化PCB処理でホルモン作用が撹乱される遺伝子群のマイクロアレイ解析による抽出、定量的PCRによるマイクロアレイデータの検証、さらにバイオインフォマティクス的アプローチによる抽出した遺伝子群のバイオマーカーとしての妥当性の検証と、機能的注釈付けによる化学物質作用の推定を行い、本年度論文として受理された。さらに、発現変動した遺伝子群のうち、細胞外マトリックスを分解するプロテアーゼであるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)が、変態期の脳において発現が上昇する事、さらには水酸化PCBの影響によりホルモン作用が撹乱される事を見いだした。また、発現変動を示す遺伝子が、転写調節レベルでどのような制御を受けているか詳細に検討するため、クロマチン免疫沈降法による解析の準備を行った。その後、ホルモン処理によって発現変動を示す遺伝子の転写制御が、ヒストンのアセチル化レベルの変化、メチル化レベルの変化、RNAポリメラーゼIIのリン酸化状態の変化によるものであることを明らかにした。このことは、ホルモン処理に酔ってRNAポリメラーゼIIによるmRNA(前駆体)の伸長反応を制御していることを示唆している。この結果は、本年度論文として受理された。今後、水酸化PCBによる遺伝子発現撹乱作用が、転写調節レベルでどのように行われているか検討して行く予定である。
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