研究概要 |
最近我々は、内分泌かく乱化学物質として知られるビスフェノールAの標的タンパク質として、プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)を同定した。PDIは1分子あたり2つの活性中心と5つの機能ドメインを持っており、新生タンパク質の正しいフォールディングに必要不可欠な酵素である。これまでに、ビスフェノールAはPDIに結合することによって、T3結合活性を阻害し、また還元型タンパク質のリフォールディング活性を抑制する事を明らかにした。本研究では、PDIの内分泌かく乱化学物質との相互作用及びそれらによって引き起こされる生理作用を明らかにするために、PDIの結晶構造解析を行い、ビスフェノールAなどのリガンド存在下での構造変化を検討し、PDIを介して制御される生理機能についてより明確な知見を得ることを目的としている。本年度は、PDIに対するビスフェノールAの結合部位を同定するため、PDIの各ドメインに対するビスフェノールAの結合性を表面プラズモン共鳴法により検討した。PDIはa, b, b', a', cドメインからなり、aおよびa'ドメインに活性中心が存在するが、ビスフェノールAはaおよびb'ドメインに結合することが明らかになった。さらに、PDIのドメイン欠損変異体のイソメラーゼ活性を測定した結果、a, ab, b'a'c, a'cドメインにおいて活性がみられた。また、ビスフェノールAの阻害性を検討したところ、b'a'cドメインでのみ阻害がみられた。これらの結果から、ビスフェノールAはb'ドメインに結合することによりイソメラーゼ活性を阻害する事が明らかとなった。これらのことから、ビスフェノールAによる阻害が、活性中心を含むドメインに直接結合することによる拮抗的なものではく、PDIの立体構造変化など、リガンド結合とイソメラーゼ活性抑制との間に何らかの相互作用を伴う事が示唆された。
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