本研究では、PDIの内分泌かく乱化学物質との相互作用及びそれらによって引き起こされる生理作用を明らかにするために、ビスフェノールAなどのリガンド存在下での構造変化を検討し、PDIを介して制御される生理機能についてより明確な知見を得ることを目的としている。最近になって、一酸化窒素(NO)がPDIの活性中心のシステイン残基をS-ニトロシル化(SNO化)し、イソメラーゼ活性を著しく変化させ、これが神経変性疾患の発症に連関していることが強く示唆されている。一方で、一部の環境化学物質が、脳神経変性疾患の原因となりうる可能性が示唆されている。そこで本研究では、ラット脳下垂体由来細胞であるGH3細胞を用いて、ビスフェノールAによるPDIのSNO化の可能性を検討した。まず、ビスフェノールAをGH3細胞に24時間曝露したところ、ビスフェノールAによってSNO-PDIの量が増加することが明らかになった。しかしながら、培地中からT_3を除去すると、ビスフヱノールAによるSNO-PDIの増加は見られなかった。すなわち、T_3の存在下でのみ、ビスフェノールAによるPDIのSNO化が促進されることが明らかとなった。そこで、T_3及びビスフェノールAによるNOSの活性化を検討したところ、T_3存在下においてNOの産生量が増加したが、ビスフェノールA曝露によるNO産生量への影響は見られなかった。この事から、T_3はGH3細胞においてNOSの発現量を誘導することによってNOの産生量を増加させるが、ビスフェノールAはPDIに直接作用することにより、NOの増加に伴いS-ニトロシル化を促進することが示唆された。一方、幾つかのビスフェノールA誘導体を用いた検討から、PDIのS-ニトロシル化には、少なくとも2つのフェノール基が必要であることが明らかとなった。
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