前年度の野外調査では、設定した調査区の照度の差が小さく、生残への大きな影響が観察されなかった。そこで、新たに照度に差があるように調査区を設定し、野外調査を行った。 2008年12月に小笠原父島アカギ林内に照度別にA(林内のギャップ)及びB(被圧木の密集区)の2調査区(相対照度はそれぞれ2.97%、0.79%)を設置し、2009年2月~7月に、生残数及び実生の枯死要因の特定を行った。病徴の見られた茎部は表面殺菌し菌を分離した。各調査区から健全な実生を採取し、新鮮重量、生育段階の測定、無機栄養元素分析、茎部のフェノール性物質の分析を行い、実生の成長や化学的性質を評価した。 2009年5月の両区の生残率に差が確認され(A区:27.7%、B区:4.1%)、その傾向は7月まで続いた。調査期間を通じて、茎部の病気が主要な枯死要因であり、4種の糸状菌が病原菌として分離された。ギャップ下であるA区ではB区に比べ実生の成長量が顕著に増加し、個体当たりの無機栄養元素量ではA区>B区となる傾向が確認された。また、A区の実生の茎部には、抗菌物質であるクロロゲン酸類縁体がB区の1.1-2.6倍多く含まれていることが確認された。以上のことから、光環境の差異はアカギ実生の成長量、無機栄養元素量、抗菌物質量に影響すると示唆され、より明るい光条件は実生の病原菌抵抗性を増大させ、生残にも影響を与えたと考えられた。
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