研究概要 |
本研究は,構造や官能基が制御できるリグニン由来の機能性バイオ素材「リグノフェノール」を吸着素材として用いて,セルラーゼの分離回収およびリサイクル利用するプロセスの開発を目的としている。本年度は,吸着素材の分子構造変換に基づくセルラーゼ回収能の向上を目指して,(1)素材主原料としてユーカリ・グロビュランスを利用,(2)コルベシュミット反応による吸着素材のカルボキシル化,(3)水熱反応による親水的凝集構造への変換に取り組んだ。ユーカリはオーストラリア,チリなどで日本企業により大規模に植林され,製紙原料として大量に供給されているため今後原料として大変有望であるが,セルラーゼ吸着量はヒノキの2/3程度であり,広葉樹リグニン特有の分子構造による阻害に起因すると考えられた。 カルボキシル基などの親水基はリグノフェノール粒子の分散性向上に寄与することが期待される。コルベ・シュミット反応は,フェノールのカルボキシル化反応として,サリチル酸製造などの工業的なプロセスであり,フェノール系高分子であるリグノフェノールへの適用を狙った。フェノールのカルボキシル化と同条件ではカルボキシル化できないことが確認された。反応に無関与な溶媒の利用,またその媒体への分散性向上が今後の鍵となる。リグノフェノールの緩和な水熱処理では,ベンジル位エーテル結合の開裂が主反応であることを確認したが,より高温の条件ではベンジル位結合の生成により三次元化が進むことが示唆され,酵素吸着量が減少するデータを得た。セルラーゼのリサイクル利用に関しては,(4)リグノフェノールからのセルラーゼ脱離に対する塩濃度,pH,界面活性剤の影響,(5)有機溶媒による脱離,などに関して詳細な検討を行い,(4)では20%程度しか脱離できず,(5)は脱離に関して優位性があるが,分離されたセルラーゼの溶解性が減少し,失活を防ぐ改善が今後必要となる。
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