本年度は、異なるプラズモン共鳴ピークを有する金属ナノ構造をナノメートルの構造間距離で配列させて、それらの吸収スペクトル測定を行うことにより、構造間に作用する電磁的な相互作用について詳細に検討を行った。共鳴スペクトルに十分重なりがある構造同士、わずかにサイズが変化した二つの金属ナノ構造、及び共鳴スペクトルに全く重なりがない構造を設計、及び作製し、プラズモン共鳴スペクトルを測定することにより、それぞれの構造間の電磁的な相互作用の大きさを比較検討した。いずれの構造においても、ナノギャップ幅の減少とともに(特に20nm以下のギャップではより顕著に)、共鳴スペクトルが系統的に長波長シフトする結果が得られた。この波長シフトは、構造間の電磁的な相互作用(プラズモンの双極子-双極子相互作用)によるもので、ナノギャップ幅の減少とともに電磁的な相互作用が増大することを示している。特筆すべき点は、共鳴スペクトルに重なりがある構造の方が、重なりが小さい構造、および重なりが全く無い構造に比べて、波長シフト量が大きくなった点である。つまり、これは共鳴スペクトルが完全に重なる系では、構造間の電磁的相互作用が大きく、スペクトルの重なりが小さくなると相互作用が小さくなることを実験的に示したと言える。そこで、時間領域差分法によりナノギャップにおける光電場強度を解析したところ、確かにスペクトルに重なりがないと相互作用は小さくなるが、増強率で比較検討するとスペクトルのシフト量の変化に比べて、増強率は大きな違いがないことが明らかになった。これは、構造同士に共鳴はなくてもミラーイメージによる電場増強が誘起されていることを示しており、アップコンバージョンシステムを構築する上で有益なデータが得られた。
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