研究概要 |
単分子デバイスを集積化し、実用的な回路を作成するための今後の課題の一つは、個々の単分子デバイス間を配線する分子サイズの幅の導線を作成する手法の確立であると考えられる。この問題に関連して、本研究課題では、有機分子層上に吸着させた導電性高分子ワイヤーの方位を単分子レベルで走査トンネル顕微鏡(STM)探針により制御することを目的とした。これに有効な高分子ワイヤーの材料となるモノマー種の選定において、ジアセチレン分子の重合反応性についての興味深い知見が得られた。末端に水酸基をもつジアセチレン化合物10,12-ペンタコサジインオールを有機溶媒pheyloctane, toluene, heptanolに溶解させ、その溶液をグラファイト基板上に滴下し、溶媒を完全に蒸発させた後、STMによりその二次元吸着膜を観察した。得られた像から格子定数を求めた結果、使用した溶媒によって分子膜の構造が異なることがわかった。重合反応に関して、heptanolから得られた分子膜でのみ、紫外線照射またはパルス電圧印加の操作からポリマーが生成したと認められるSTM像が得られた。反応部位であるジアセチレン部の距離が、phenyloctaneおよびtolueneから得られた分子膜では、それぞれ0.57nm、0.55nmであるが、heptanolから得られた分子膜では接近して0.4nmmmであった。このことにより、heptanolから得られた分子膜のみで重合反応が進行したものと考えられる。また、直鎖分子(1-octadecanol)の吸着層において、末端水酸基が水素結合を形成していることを明らかにした。このことから、10,12-ペンタコサジインオールの吸着膜では、水酸基間で形成される水素結合とアルキル鎖間で形成されるファンデルワールス相互作用が均衡しているために、溶媒に依存した異なる構造が出現したものと考えられる。
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