本研究は有機電界効果トランジスタ(OFET)における諸界面に関する電気伝導特性を調査するものである。前年度では電極と分子層との界面にアルカンチオールの自己組織化単分子膜(SAM)を有するOFETの動作特性を調べ、特にSAMの平均分子密度が小さい場合にSAM構造の秩序-無秩序スイッチングに伴う異常なヒステリシスが観測されることを見出した。本年度はこの現象を様々な系において調査することを目的とし、次の2点を行った。即ち、(1)異なるSAM分子種を用いたOFETの特性評価と(2)別概念の界面を調査するための有機単結晶ヘテロ界面の伝導特性評価、の2点である。前者としては、フェニル基を基本骨格として有する種々のSAM分子種を利用することで、ルブレン単結晶を用いたOFETのショットキー障壁高さについて調査した。それにより、短チャネル素子の電流電圧特性をダブルショットキー構造を仮定してフィッティングすることでショットキー障壁高さを求めると、SAMが無い場合障壁高さが低くとも接触抵抗が高いという状況が起こり得ることを見出した。これはルブレン分子-電極間の直接的な相互作用により界面準位が生じたためと考えられる。後者としては、ルブレン単結晶とテトラシアノキノジメタン(TCNQ)単結晶を貼り合わせることで界面に伝導層が形成されることを見出した。また、以前に報告されていたTCNQ単結晶とテトラチアフルバレン(TTF)単結晶の貼り合わせ界面についても調査し、その過程でTTF分子の昇華が室温程度でも十分に起こることを見出した。これにより、TCNQ-TTF界面の金属的伝導は単結晶同士の界面で生じたというよりもTCNQ表面へのTTF分子の堆積により生じたと理解すべきことが明らかとなった。有機単結晶上へのSAM形成の報告もあることから、将来的には有機単結晶ヘテロ界面へのSAM挿入効果について調査したい。
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