固体表面間の摩擦の理解および制御は、効率的な動力伝達による省エネルギー化や部品の耐久性向上など工学をはじめとする幅広い分野において重要な課題である。本研究は、ナノ共振ずり測定を用いた液晶・液体ナノ薄膜の摩擦・潤滑特性の直接評価および分子シミュレーションによる固体表面-液体(液晶)間の相互作用の解明から、液体ナノ薄膜による潤滑剤設計の基礎を構築することを目的とする。 本年度は、固/液界面の構造を詳細に調べるため、界面の構造を1オングストローム以下の分解能で測定可能なX線CTR散乱測定を高エネルギー加速器研究機構で行った。まずはこれまでナノ共振ずり測定で高潤滑性を示した雲母表面間のNaCl水溶液ナノ薄膜について、その潤滑メカニズムを考察するため、雲母表面/NaCl水溶液界面の電子密度分布を測定した。雲母表面/NaCl水溶液界面では、表面から1.5nm程度まで水溶液密度の振動が観測された。さらにこの電子密度の振動が、雲母表面に吸着した水和Naイオンとその周りの構造化した水分子に起因することを分子シミュレーションから明らかにした。得られたNaCl水溶液の構造とナノ共振ずり測定の比較により、雲母表面に挟まれた厚さ1nm以下のNaCl水溶液は、雲母表面に内圏錯体として存在する水和Naイオンの水和殻内の水分子の交換により、高い潤滑性を示すと考えている。本年度の研究成果は、水和潤滑のメカニズムの解明に向けて大きく貢献すると考えている。また雲母表面における液晶分子の安定構造の解析など、液体(液晶)ナノ薄膜のトライボロジーを理解する研究を行っている。
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