本研究では、レーザ光照射と走査トンネル顕微鏡(STM)法を組み合わせることにより、欠陥などの原子スケールの構造ゆらぎと光誘起金属-絶縁体相転移との関係を局所的かつ動的に調べる。系の局所相状態は、STMによる構造観察および走査トンネル分光法(STS)による電子状態観察によって同定する。また、相転移の動的挙動は、フェムト秒パルスレーザを用いた時間分解STM法により調べる。本年度は、Si(111)表面上に作成したインジウム(In)ナノワイヤー系について、レーザ光未照射時(暗状態)と照射時(明状態)での相状態を調べた。暗状態ではほとんどの領域が金属状態であったが、明状態ではほとんどの領域で絶縁状態となっていた。この結果は、レーザ光照射によって相転移が誘起されていることを示している。この金属-絶縁体相転移の発現機構として、Si基板のバンドが表面付近で湾曲しているために、基板から最表面In層に電荷が注入されて、In系の電子状態が変化して転移が誘起されるというモデルを提唱した。さらに、レーザ光照射だけでなく、探針-試料間電圧を変えることによっても相転移を制御できることが明らかになった。この場合、探針の作る電場の空間広がりはナノメートルスケールであり、局所的な相転移制御が可能となるだろう。本研究で明らかになった相転移現象および制御法は、これまで報告例がなく、全く新しい機構に基づくものである。この方法は、可逆的かつ高いスイッチング速度での相転移制御を可能とし、また、他の低次元金属/半導体基板系にも適用できる可能性が直いため、光スイッチや光センサーなどへの応用も期待できる。
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