本研究では、ナノ構造の電子状態や電気伝導特性を量子力学の第一原理に基づいて予測するためのシミュレーション手法および開発を行っている。特に、今後の計算機の進化の傾向を鑑み、並列計算に有利な実空間差分法を用い、ペタコン世代の計算環境でグローバルスタンダードとなる大規模第一原理計算コードを開発しようとするものである。コードめ基幹部分の開発は研究代表者が中心となって行い、一部のサブルーチンはドイツ・ユーリッヒ研究所と共同でも開発している。開発中のコードは、共有メモリ型並列計算機および分散メモリ型並列計算機の両方で高速な計算が可能なように、MPIおよびOpenMPのハイブリッド並列化を行っている。今年度は、Projector Augmented Wave擬ポテンシャルの計算の高速化を行った。これにより、スピン分極した系の高精度で高速な電子状態計算が可能となった。さらに、量子輸送計算のルーチンを従来のグリーン関数を用いた方法に加え、波動関数の時間発展により求める計算方法も開発した。 また、シリコン系トランジスタの基本構成要素として広く使われている酸化シリコン/シリコン界面における界面欠陥とリーク電流の相関を、新規に開発したコードを用いて調べた。特に、欠陥構造の違いによるリーク電流量の差異や界面欠陥構造とリーク電流経路の相関、水素シンターなど界面欠陥処理方法のリーク電流抑制に対する効果を評価し、絶縁特性の劣化に深刻な影響を与える界面欠陥構造を特定した。
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