本研究では、カーボンナノカプセル集合体や単体またはナノウィスカー、ナノチューブなどのカーボンナノ物質を単一分子素子へ応用するための基礎研究として、カーボンナノ物質の電気伝導特性や機械特性、発光特性、電界電子放出特性などをその場透過電子顕微鏡法により明らかにすることを目的とする。本年度では、まず、顕微鏡内でカーボンナノ物質において特異な物性が発現したときの構造ダイナミックスを原子レベルの空間分解能で動的観察し、構造変化を把握するとともに、そのときの物性値を同時に測定し、構造と物性の関係を明らかにするシステムを構築した。次に、銅ナノロッド内包ナノチューブを用いてナノチューブの金属輸送現象をその場透過電子顕微鏡法により調べた。顕微鏡内で銅ナノロッド内包ナノチューブ個々の先端をタングステンナノチップの先端に接触させ、ナノチューブ両端に電圧を印加した。このときの構造変化をテレビカメラにより動的に観察し、同時に印加電圧と電流の変化を測定した。一例として、直径18nm、長さ256nmの銅ナノロッド内包ナノチューブでは、印加電圧を1.4Vまで増加させると、電流は10.0μAまで増加し、同時に銅ナノロッドがナノチューブの内壁に沿って陽極から陰極の方向に移動した。このときの電流密度は、10^6A/cm^2オーダーであり、LSIの銅配線においてエレクトロマイグレーションが起こるときの電流密度と同程度であることが 明らかになった。ナノチューブの電気抵抗は、銅ナノロッドの消失にともない30%程度増加した。また、移動した銅をナノチューブと金属との接合部材として利用できる知見を得た。
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