生物分子モーターは、ナノメートルサイズのタンパク質分子機械であり、高いエネルギー変換効率で力を発生できる優れた運動特性を持っている。本研究課題では、分子モーターの周囲を取り巻く水分子に着目し、高圧力技術を用いて分子モーターと水分子との相互作用を変調しながら、その動きをナノメートル計測により検出できる顕微鏡を開発することを目的とする。研究の遂行にあたり最も重要となる課題は、高圧力下での光学顕微観測を可能とする高圧チャンバーの開発となる。従来型の高圧チャンバーでは、耐圧性能の確保するために、チャンバー開口部分の開口数を拡げることが困難であり、高分解能・高感度の顕微観測を阻んでいた。研究代表者は、開口径が0.1mmのチャンバーに、厚さ0.2mmのサファイア窓剤を外側から貼り付けることで、耐圧性能と高開口数を両立させた新しい高圧チャンバーを開発した(特許出願中)。現在、500気圧の耐圧性能を確認しているが、今後の改良によりさらに大きな圧力をかけることも可能となる。チャンバー内部の光学顕微観測には、サファイアの屈折率(n=1.76)に適応したオリンパス製の油浸型対物レンズを利用した。さらに、近赤外光をチャンバー内部で集光させることで、光ピンセットを用いたナノ操作技術を導入することに成功した。本年度の取り組みにより、高圧力下での生体分子モーターのナノメートル計測を行う上で必要となる基盤技術を開発できたことになる。
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