平成21年度は、前年度に形状を最適化したプラズモニックナノホール構造をマイクロフルイディスク中に実装した。プラズモンセンサの基板にはペットフィルムを使用し、ナノインプリントにより構造を転写することで、安価かつフレキシブルな基板を作成した。微小流路は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)をソフトリソグラフィと呼ばれる技術により加工し作成した。光透過性の高いPDMSを流路材料として利用することで、基板上側からの白色光の直接入射、基板からの反射光の測定を可能とした。作成したプラズモンセンサチップを使用して、ウシ血清アルブミン(BSA)の金基板に対する非特異的な吸着をモニタリングした。その結果、BSA溶液を導入するに従い、反射スペクトル中に存在するプラズモン共鳴由来のディップが徐所に長波長側にシフトする現象を確認することができた。これは金ナノホール構造表面にBSAが吸着することで、表面の屈折率が大きくなったことによると考えられる。続いて、作成したチップ上での抗原抗体反応をリアルタイムでモニタリングした。本測定では炎症マーカーの一種であるTNF-αを抗原として使用した。あらかじめ抗体を化学修飾により固定化した金ナノホール構造に種々の濃度のTNF-αを導入したところ、濃度に応じたディップのシフトを確認した。これより、我々は非常に簡便に作成されたセンサチップを用いて生体相互作用の一種である抗原抗体反応をリアルタイムで測定することに成功した。しかしながら、得られた検出限界は1μg/mL程度と従来のクレッチマン型SPRと比較すると2桁程度劣るものであった。そこで我々はさらなる検出限界の向上を目的として、抗原抗体反応を行った後、金コロイドを導入することでシグナルを増幅させた。その結果、検出限界は10ng/mLとなり、金コロイドを用いない時と比較し2桁程度の検出限界向上を達成した。
|