本研究では、超高速・超高効率分子デバイスを実現する上で必要不可欠な量子伝導を発現させるための分子設計指針を提案することを目的としている。特に、単分子伝導機構を支配するHOMO-LUMOギャップと電極-分子カップリングを系統的に制御した分子の設計・開発を行い、これら2つのパラメータと単分子電気伝導の相関を明らかにし、量子伝導機構に適した分子設計指針を最適化していく。 昨年度、TTFと、TTFの硫黄をセレンに置換したTSFの単分子コンダクタンスを比較したところ、TTFの方が高いコンダクタンスを持つことを明らかにしている。これは、分子と電極がface-to-faceの結合様式、つまり金のs軌道と硫黄(セレン)のp軌道がσ結合で接合されているため、すでにTTFで強結合が実現され、セレンに置換することで、より強い電極-分子カップリングが生じたためと考えられる。そこで、今年度は、TTF、TSFと同程度のHOMO-LUMOギャップを持つチオフェン3量体のジチオール体(3T-S)とジセレノール体(3T-Se)を合成し、これらの単分子コンダクタンスを比較した。その結果、3T-Seの単分子コンダクタンスは、3T-Sの1.4倍の0.17G_0(G_0:量子化コンダクタンス)であった。3T-S(3T-Se)と電極は、金のs軌道と硫黄(セレン)のp軌道がπ結合で接合されているため、3T-Sでは弱い電極-分子カップリングが形成されているが、セレンに置換することで、適度に強い電極-分子カソプリングが形成されたと考えられる。従って、単分子コンダクタンスは、電極-分子カップリングの大きさに強く依存し、電極-分子カップリングの制御には電極-分子の結合様式の制御が重要であることが明らかとなった。
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