本年度はArイオンビーム変質法による単層カーボンナノチューブを用いた単電子トランジスタの試作を行った。第一段階としては、クーロンアイランドサイズが50nm程度のデバイス構造を構築、100K程度の温度でクーロン振動を観測し、単電子トランジスタの動作を確認した。これについて学会発表、論文発表等を行った。それに続いて、クーロンアイランドのサイズとバリア幅を最適化した結果、動作温度の指標となる帯電エネルギーが約60meVである単電子トランジスタの形成に成功した。このトランジスタは室温動作に必要な帯電エネルギーを有している。このトランジスタのクーロンアイランドサイズは約20nm程度である。測定結果の解析から、本研究で開発された単電子トランジスタでは、極めて小さい容量を持つバリアが形成されており、それによって高い帯電エネルギーを確保できていることがわかった。この結果は、本研究の目的である単電子回路網を形成するために必要な条件である複数の単電子トランジスタの一括形成手法が確立されたことを意味する。これについても、本年度内に学会発表を行う。本年度の交付金で作製した測定システムは8月に完成し、以後本研究を進めるに当たっての測定環境として活用している。以上の結果を受けて、次年度は複数トランジスタを用いた回路形成に挑戦する。本年度に行ってきた実験から、回路形成に当たってはデバイスの歩留まりが問題となることが明らかになったが、次年度の早い段階でこれを解決すべく取り組む予定である。
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