本年度はまず、昨年度開発されたアルゴンイオンビーム変質法によって、微小な単層カーボンナノチューブ量子ドット(ドット長25nm、バリア幅20nm程度)を形成し、単電子トランジスタとしての諸元を調査した。それにより、最高動作温度は160K程度であったが、動作温度の決定要因である帯電エネルギーは80meV程度まで確保できており、室温動作するに充分なエネルギーが確保できていることがわかった。それにもかかわらず動作温度が160Kに留まっている理由は、ノイズによる単電子動作の消失だと考えている。これは現状のカーボンナノチューブ単電子トランジスタの形成プロセスにおける汚染対策によって対応できる可能性がある。この開発されたアルゴンイオンビーム変質法によって、トップダウン的アプローチによって高い帯電エネルギーを持つカーボンナノチューブ単電子トランジスタを形成できることを示したことは、その集積可能性を示したという意味で意義がある。これについては学会発表1件を行い、また論文発表を1件行った。回路網の試作については、試料の歩留まりの問題から充分な数の単電子トランジスタを同一チップ上に確保できず、実現できなかった。歩留まりの低さの原因を探求するために、アルゴンイオンビーム変質法を用いない単電子トランジスタ(低温動作)を形成し、歩留まりの比較を行ったが、ほぼ同程度の歩留まりであるという結果が得られた。これは歩留まりがアルゴンイオンビーム変質法によっては決まっていないことを示しており、現状ではデバイス作成プロセス側では解決が難しいことが明らかになった。
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