研究概要 |
過去の水害の痕跡である破堤地形や落堀などが地中表層に埋没した水害地形は,流域の水害特性と密接に関係している.それらを読み解き,現在の土地利用との関係性を防災的な観点から考えることは,地域の特性を反映した水害リスク評価を行ううえで,非常に重要である. 近年,各自治体等においてハザードマップが公開されるようになり,これらは流域防災の視点から非常に有用である.しかし,その水害地形の形成過程や堆積物の質等,物理的な要因はほとんど考慮されておらず,水害イベントの物理過程を復原するには不十分であり,高精度な水害リスク評価を行うことは困難である. 本研究では,メソスケールの埋没破堤地形を対象とし,比抵抗探査および表面波探査の統合物理探査を適用することにより,物理的な同定を試みる.また,破堤イベント過程を物理探査結果から読み取り,水害地形環境の評価を行うことも目的とした. 得られた主要な結論は以下の通りである. 1) 物理探査結果にもとづき,破堤に伴う氾濫土砂量を算定した.その結果,氾濫土砂量は100~200万立方mであった.これは,近年の破堤事例と比較して,非常に大規模な破堤イベントであると推察され,破堤当時の木津川河道には砂質堆積物が過度に堆積し,天井川化が著しい状態であったことがうかがえる. 2) 上記の氾濫土砂量を運搬するために必要な氾濫流量を,等流および掃流砂形態条件を仮定し,算定した.その結果,氾濫流量は10億トンと推算された.これは伊勢湾台風(5915号)来襲時の木津川における氾濫流量と同等の出水イベントであったことが考えられる. 地中レーダーによる破堤堆積物の物理探査およびハンディージオスライサーによる地層サンプリングが実施済みであり,今後,破堤地形の詳細な堆積状況の把握およびそれらの堆積相観察を通じ,破堤時の堆積物の流動・堆積過程のダイナミクスについて検討する予定である.
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