これまでに有袋類で解析されたのは、全て真獣類のインプリント遺伝子のオルソログである。その中で、有袋類では刷り込みを受けない遺伝子は、有袋類との分岐後に真獣類の系譜のみで刷り込みが起きたと考えられる。このような遺伝子が複数存在することは、逆に有袋類のみで刷り込みを受ける遺伝子が存在する可能性を示唆している。有袋類ではどのような機能をもった遺伝子が刷り込みを受けるようになったのか、刷り込みを受けない真獣類とはゲノム領域にどのような違いがあるのか、有袋類特異的な刷り込み領域の解析からは、ゲノム刷り込みの起源、進化、生物学的意義に関する重要な知見が得られると考えられる。通常、全く新規のインプリント遺伝子を同定する場合、雄性発生胚や雌性発生胚を用いて過剰発現または発現がなくなる遺伝子をスクリーニングする。しかし、現時点では有袋類においてそのような特別な材料は得られない。そこで申請者は、DMRという特徴を指標に用いてゲノム領域をスクリーニングすることで、新規の刷り込み領域を発見できないかと考え、高度にDNAメチル化されているものとほとんどされていないものが混在するCpGアイランドを選択的に濃縮する方法を新たに考案した。現時点で、ポジティブコントロールであるPEG10-DMRの3つの断片は最終的なリンカーPCRによりすべて増幅され、ネガティブコントロールであるDMRではないCpGアイランドは増幅されないこと、メチル化と非メチル化アリルが混在するDMR様のDNAメチル化状態を示す候補領域およびPEG10-DMR自身がこの系を用いて独立に同定されたことから、本質的には完成していると考えられる。今後、反復配列の増幅を抑制するなど系の精度をさらに高める改善をしながらスクリーニングを進め、候補の多型解析を平行して行ってゆく予定である。
|