本研究では、ゲノムのDNAメチル化状態が均一ではない領域を増幅する方法を新たに開発した。親由来により異なったエピジェネティック修飾を与えることで遺伝子の片親性発現を引き起こすゲノム刷り込みは、高等脊椎動物では哺乳類のみに見られ、個体発生に必須である。しかし、遺伝子の片親生発現は、劣勢変異を無効にすることができないという明らかなデメリットを生む。また、ゲノム刷り込みの複雑な制御機構の異常は、様々な遺伝病の原因となることがわかっている。したがって、なぜ哺乳類においてゲノム刷り込みが獲得され保存されてきたかは非常に大きな興味の対象である。今回私が開発した方法は、雄性発生胚などの特別な実験材料なしに、ゲノム刷り込みを受ける領域を、半分のアレルのみメチル化されているゲノム領域(DMR ; differentially methylated region)をたよりに探索することができる。マウスやヒトなどが含まれる真獣類とは別のグループの哺乳類である有袋類において特異的なゲノム刷り込み領域を探索し、真獣類と比較解析することで、何によってどのようにゲノム刷り込みが生じるのか、またどのような遺伝子にゲノム刷り込みがおこるのかについて、重要な知見が得られる。現在までにこの方法により、有袋類であるタマーワラビーにおいて、既知のDMR1ヵ所を含む14ヵ所のDMR候補を得た。今後、これらの候補領域の解析から、ゲノム刷り込みの進化と起源についての重要な知見が得られると期待している。
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