本課題では、レトロトランスポゾン由来で父性発現遺伝子であるPeg11/Rtl1の発現欠損マウス(Pat-KO)と過剰発現マウス(Mat-KO)が新生仔期に致死となる原因を解明するため、Peg11/Rtl1タンパク質の発現臓器、及び致死の直接の原因となる臓器の特定を行った。 Peg11/Rtl1タンパク質の発現臓器の探索においては、免疫染色法の条件の改良によって、これまで胎盤での発現しか確認できていなかったものを、新生仔骨格筋でも発現していることを発見した。さらに、Western blottingによっても、胎盤および新生仔骨格筋におけるPeg11/Rtl1タンパク質の発現を確認することができた。これらの結果は、Peg11/Rtl1の発現異常マウスの新生仔期致死の原因が、骨格筋にあるごとを示唆している。 さらに研究代表者は、新生仔期致死に関わると考えられる骨格筋の役割として、呼吸機能に注目し、ノックアウトマウスの新生仔期呼吸活動を測定した。その結果、通常環境での呼吸回数、および一回換気量に野生型、Pat-KO、Mat-KOマウスの間に有意な差は認められなかった。しかし、高二酸化炭素環境において、Peg11/Rtl1の過剰発現マウスであるMat-KOの一回換気量の上昇率が野生型に比べて小さいことがみつかった。呼吸回数は野生型と同程度に上昇していることから、Mat-KOマウスでは横隔膜の最大張力が野生型より低いことが示唆された。すなわち、Peg11/Rtl1は骨格筋で重要な役割を担っていることが考えられる。 ヒトのupd(14)症候群では、腹直筋の乖離や筋緊張の低下、呼吸不全など、骨格筋異常が原因と考えられる症状を呈する。本研究成果は、これらの症状の原因がPEG11/RTL1の発現量異常であることを示唆しており、今後upd(14)症候群の治療法の開発において重要な知見を与えるものと考えられる。
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