天然有機化合物の的志向型合成は、有機化学の主要な研究野の一つとして広く研究されている。しかし、必要な時に必要な量を供給できるほど成熟しておらず、有機合成力のさらなる向上が強く求められている。本研究では、天然物からの試料調達が困難であり、詳細な生物活性の発現機能の究明が強く求められている海産毒アザスピラシドを標的化合物に設定し、その合成研究を行う。新規な構造を有するアザスピラシドの全合成研究を通して、高次構造天然物の新しい合成戦略の確立と化学合成による化合物の提供を目的とする。科学研究費補助金の支援によって、本年度以下の研究成果が得られた。 1 : 光学活性α-アルコキシスタナンの実用的合成法の開発 : α-アルコキシスタナンはキラルビルデイングブロックとして有用な化合物であるが、大量合成可能な実用的合成法は皆無に等しかった。アザスピラシドの全合成において必要となった本化合物の合成法を検討した。アルデヒドに対しスズリチウム試薬を付加してスタニルアルコールへ変換後、有機分子触媒を用いる不斉アシル化により速度論的に光学分割し、系内で未反応のスタニルアルコールをメトキシメチル基で保護すると、α-アルコキシスタナンの両鏡像異性体が高い光学純度で得られることを見出した。本手法は、種々の基質に対して適用でき、大量合成も可能であった。有機合成上有用な手法を提供するものと期待される。 2 : FGHI環部の合成研究 : 全合成を達成する上での最重要課題であるアザスピロ環骨格構築を検討した環化前駆体の鎖状アリルエポキシドの合成を、エポキシドの開環反応を基軸とした独自の手法で達成した。本化合物を鉄-ポルフィリン錯体と処理すると、ケトンへの異性化と続くアセタール環化が一挙に進行し、FG環部に相当するアセタール構造が構築できた。続いて官能基を変換し、HI環部環化前駆体へと導いた。
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