研究概要 |
高次構造天然物の新たな合成戦略の提案と化学合成による化合物の提供を目的として、天然からの資料調達が困難であり生物活性発現機構の究明が強く求められている海産毒アザスピラシドの全合成研究を遂行した。本年度は、全合成上最重要課題であるFGHI環部(C26-C40)の合成研究を中心に行った。前年度に確立した有機分子触媒を用いる手法でC26-C32フラグメントに相当する光学活性α-アルコキシスタナンを合成した。本手法はグラムスケールでも問題なく進行することから、実用的な光学活性α-アルコキシスタナン合成法であることを示すことができた。この化合物から光学活性カルバニオンを調整してC33-C40フラグメントのアルデヒドへ付加した後、官能基の変換を経て環化に必要なすべての酸素・窒素原子を有するC26-C40フラグメントを合成した。保護基と炭素鎖伸長法を見直すことで、本フラグメントの大量供給が可能になった。なお、C33-C40フラグメントの合成には、我々が開発したγ,δ-エポキシ-α,β-不飽和エステルの二重立体反転を伴う立体特異的アルコキシ置換反応を活用することで達成し、現在この分野で汎用されるアルドール反応を利用しない新たなポリプロピオネート構造合成法を提案できた。この鎖状化合物を鉄-ポルフィリン錯体を用いてアセタール化(FG環化)し、次いでアザスピロ環化(HI環化)前駆体へと導いた。我々独自のイミニウムイオンを経由する方法を中心に種々の環化条件を検討したが、目的とするアザスピロ環化体を収率よく得ることはできなかった。化学的に不安定なFG環部に原因があることが示唆されたので、アセタール化とアザスピロ環化の順を入れ替えることにし、FG環部アセタールを持たない鎖状環化前駆体を合成した。現在アザスピロ環化を検討中である。また平行して、ABCD環部(C1-C20)の合成研究も行った。
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