生体膜上に存在する膜電位依存性Kチャネル(Kv)は、基本構造として6回の膜貫通部位(S1〜S6)を持ち、膜電位センサー(S1〜S4)のS4には多くの正電荷残基が存在する。比較的親水性の高いS4の膜への挿入機構は、これまで不明であった。本研究室では、シロイヌナズナのKvチャネルであるKAT1がS3とS4が一体となって膜へ組込まれること、ショウジョウバエのKvチャネルShakerにおいてはS3がその高い疎水性により自立的に組込まれ、S4には通常の膜挿入機構で組込まれる能力があることを明らかにした。しかし、'古細菌のKvチャネルKvAPのS4は、KAT1やShakerよりも疎水性が高い。本研究では、KvAPの膜電位センサーの組込み様式について、ウサギ網状赤血球由来タンパク質合成系およびイヌ膵臓由来の粗面小胞体を用いたin vitro解析を行った。その結果、KvAPのS3は組込み特性を持たないが、S4はN末端側を小胞体内腔へトランスロケートさせる活性(SA-I活性)を持つことが見出された。このことから、KvAPにおいては、膜に組込まれる特性の低いS3に続いてS4が合成されると、S4が自身のSA-I活性によって膜へ挿入し、S4のN末端側セグメントであるS3が強制的に膜内に引き込まれ、2本のTMが同時に形成されることが推測された。以上より、KvAPの構造形成過程は、KAT1やShakerのそれとは異なる挿入機構によることが分かった。また、KvAPS4のSA-I活性は比較的弱いことが分かってきており、S3-S4部分の膜組込み後の安定化には静電相互作用の寄与が示唆された。
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