細胞分裂期に特異的に機能するキネシン様モータータンパク質[Eg5]は、その分裂期特異性から、細胞周期の進行を阻害する低分子化合物の標的分子として注目され、複数の天然・合成化合物が発見・同定されている。しかしながら、Eg5の詳細な運動の分子機構及び、低分子化合物によるEg5の運動の阻害機構はいまだ不明である。本研究代表者は、昨年度に、ATP駆動性の分子モーターEg5のモータードメインが、微小管をすべり回転運動(コークスクリュー運動)させることを、微粒子の位置を高精度かつ3次元で測定できる顕微鏡を用いて報告した。本年度は、研究計画で述べた2つの項目において進展があった。(1)Eg5の基本的運動能の定量的な計測と、(2)低分子化合物によるEg5の運動阻害、特に回転運動に対する効果の定量を行った。(1)では、キネシンのモータードメインによる微小管のコークスクリュー運動のピッチ(微小管が1回転毎に直進する距離)は、溶液中のATP濃度や塩濃度、微小管の長さなどによらずほぼ一定であることが分かり、微小管を直進させる速度と回転させる速度の比がよく保存されていることが分かった。このことから、分子モーターキネシンの運動メカニズムを詳細に理解するには、直進方向の運動機構のみならず、回転方向への運動機構を含めて検討する必要があることが示唆された。(2)では、Eg5に対する低分子化合物の阻害は、直進方向への運動よりも、回転方向への運動に対する効果の方が強い傾向が見られた。さらに、低分子化合物によるEg5の力発生の阻害効果を直接定量するために、光ピンセット法を利用した破断力測定装置を構築している。
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