Gタンパク質共役型受容体(GPCR)ファミリーに属するブラジキニンB1受容体(B1R)の作用機構解明を目的に、当該受容体に対し拮抗作用を示す、velutinol Aの合成研究を行った。平成20年度に行ったコンピュータモデリングの結果から、velutinol Aの構造を特徴付けている、籠状に連結したDEF環部が、生理活性発現に重要な役割を示していることが示唆されたため、まずは、この構造の構築法の開発に焦点をしぼるため、既にvelutinol AのABC環部の既に整った、デヒドロエピアンドロステロンを出発物質とし合成に着手した。本化合物合成に於いて問題として考えられるのは、1)14位β水酸基の導入、2)17位への立体選択的C2ユニットの導入、の2点であった。この問題点を解決するため以下の合成戦略をとった。始めに、3位水酸基とΔ5の保護を兼ね、シクロプロパン誘導体を合成した後、D環部ケトンを三枝酸化反応により、エノンへと変換した。その後、生じたΔ16を立体選択的にエポキシ化し、続く、18-ケト部位のワートン反応により、アリルアルコールへと収率よく誘導した。得られたアリルアルコールの水酸基を酸化し、生じたエノンに対し、アリル銅試薬を用いたマイケル付加反応により、18-α選択的にC2ユニットの導入に成功し上述の問題点2)を解決することができた。なお、合成したこの化合物は、velutinol Aの全炭素骨格をそろえており、後の、研究において必要な、誘導体合成のベースキャンプと成り得るものである。最後に、問題点1)を解決するために検討を行った結果、最終的に、得られた化合物の二重結合のエポキシ化と環状ケトンのバイヤービリガー酸化反応を兼ねて、メタクロロパーベンゾイックアシッドを作用させることとした。その結果、狙い通りの化合物の合成に低収率ながら成功した。問題点1)を解決するためには、更なる研究が必要となるが、その足がかりと成る化合物の合成に成功したことになる。
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