細胞質で合成された蛋白質の細胞膜への挿入において、既知のトランスロコンと呼ばれる蛋白質群以外に、新たにリポ多糖様の構造を持つと推定された非蛋白質性膜挿入因子の関与が示唆されている。この新因子の詳細な機能解明を目指し、本年度は単離・同定を進めた。 まず、市販のLPS抽出キットを用いて、大腸菌の菌体から膜挿入因子が抽出できることを見出したが、その後抽出の再現性に問題があることがわかった。そこで、再度菌体からの抽出法を検討し、フェノール・クロロホルム・石油エーテル法で知られるLPS抽出法が、再現性よく容易に菌体からLPSとともに膜挿入活性成分を抽出できる手法であることを見出した。これにより、大量の菌体から効率よく活性成分を抽出することが可能となった。さらに、得られたLPS抽出物から活性成分の濃縮を試み、陰イオン交換カラム、疎水性カラム、逆層シリカゲルカラム、ゲル濾過カラムなどの複数のカラムを組み合わせた分離操作により、活性とは無関係なLPSを段階的に除去し、膜挿入活性成分を濃縮することに成功した。一方で、大腸菌の内膜成分からの膜挿入因子の分離についても検討し、得られた内膜成分を陰イオン交換カラムと液-液分配カラムにより分離を行うことで、内膜成分からも膜挿入因子の高濃縮に成功した。さらに、それぞれの活性成分をNMRによる解析、化学処理などを行い比較検討した結果、互いの膜挿入活性成分は異なる分子であるという重要な知見が得られた。これは外膜と内膜にそれぞれ異なる膜挿入活性機構が存在する可能性を示している。特に、重要な生物学的意義を持つ内膜の因子は、LPS同様にグルコサミンを有するが、構造はLPSとは大きく異なることが明らかとなり、さらに、ある一定の構造単位を構造内に有する高分子であることが示唆された。
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