本年度は、大腸菌内膜成分より高濃縮に成功した膜挿入因子を用いて構造解析を進めた。 まず、因子の構成成分の解析のため組成分析を検討した。その結果、膜挿入因子には中性糖やアミノ酸などは存在しないことが明らかとなった。これにより、膜挿入因子は非蛋白質性の有機分子であることが実証された。一方で、大腸菌に代表的な脂肪酸が検出されるとともに、アミノ糖の存在が示唆された。また、MALDI-TOF MS解析を行うことで、膜挿入因子の分子量は10000を超える分子であること、また、3っのユニットから構成される一定の繰り返し構造を有しているなどの構造上の特徴が明らかとなった。さらにNMR解析により、3つのユニットはいずれもアセチル基の修飾を有したアミノ糖であることが推察されるとともに、ジリン酸ジエステル結合の存在が示唆され、さらにリン酸基は、糖の1位と結合していることも明らかとなった。これらの知見を受けて、膜挿入因子の化学処理による部分分解と化学修飾を行い、GC-MSを用いて合成品との比較解析を行うことで、3つの糖ユニットすべてを同定するに至った。さらに、(S)-(+)-2-ブタノールを用いてブチルグリコシドへと変換し、GC-MSで標品サンプルと比較解析することで、すべての糖ユニットの立体を確定した。また、リン酸基と結合している糖鎖還元末端の糖も確定した。さらに、48%HF水溶液処理後のQ-Tof解析、および塩酸/メタノール処理とトリメチルシリル化後のGC-MS解析により、ジアシルグリセロール構造が示唆された。加えて、アシル鎖の鎖長は固定されていないことも明らかとなった。以上の知見より、膜挿入因子の全体像は、ジリン酸ジエステル結合を介して、ジアシルグリセロール構造と糖ユニットの繰り返し構造とが結合した構造を有していることが明らかとなった。
|