本研究の目的は、小コウモリ類の分布特性を巨視的に捉え、動物地理などと歴史的な背景や遺伝的要因が分布制限要因となりうるのかを検証し、保全対象を明確にする事である。具体的には北海道をモデル地区としている。 平成21年度から引き継いだ課題として、北海道内で偶然拾得された二種、ヒメヒナコウモリVespertilio murinusおよびクロオオアブラコウモリHypsugo saviiについての分子系統学的検討をおこなった。加えて、アメリカスミソニアン博物館に長期滞在し、これら拾得個体と他地域の個体の形態的特徴を比較し、分類学的検討を行った。これらのまとめ、この成果を論文として発表した。 また、北海道と関連の深い国後島でのコウモリ相調査をおこない、67個体9種を捕獲した。このうち2種については、国後島での初記録種であった。これらの個体と、ロシア極東部、北海道との関連について分類学的よび分子系統学的な検討をおこなっている。これにより、ロシア極東部および北海道周辺の島嶼地域のコウモリの動物地理的な背景と、種ごとの分布様式を明らかにし、分布制限要因がなにによるのかについて検討を行っているところである。 また、これまで行なわれてきた北海道における捕獲調査による結果をまとめ、種ごとに捕獲地点を示す地図を作成した。今後は、この地図と植生や環境などの地理的特徴と重ね合わせ、種ごとの分布特性について解析を行う予定である。 これらの3年間の研究成果に基づいて、今後、小コウモリ類の保全モデルを提言する予定である。
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