研究概要 |
現代社会において、資源を巡る争いはローカル、ナショナル、グローバルの各レベルで激しさを増しており、これらの対立を協調へと導く制度や規範の生成が焦眉の課題となっている,本研究では、東南アジア大陸部と島嶼部を事例として、資源を巡る対立と協調に関連する政治的なプロセスを明らかにする。また、それらが持つ多元性と固有性、ひいては経路依存性を考慮しつつ、対立から協調への移行プロセスを提示することで、地域に固有で多元的なガバナンスのあり方を検討する。 平成22年度は、これまでに得られた知見をもとに、資源を巡る対立と協調のブロセス論理を概念化し、他地域との比較を通して、普遍性と地域固有性について検討していくことになっていた。よって、タイで補足調査を行う一方で、これまで収集した森林資源をめぐる対立と協調に関するデータや知見をまとめ、新たな知見を生み出す作業に心を砕いた。具体的には、昨年までに得られた森林ガバナンスに関する知見と併せて、熱帯アジア地域の森林管理制度が特定のガバナンスの形をとるに至った経緯を地球史的な視点から解釈し、東アジアにおけるプロセスとの比較を試みた。 その緒果、1)19世紀以降のアジアにおける森林管理制度と技術の発展が、「普遍化」と「現地化」という二つの方向に進んできたこと、2)東アジア、特に日本では、西洋からの森林管理制度や技術を比較的柔軟に適用・運用することができた一方で、熱帯アジア地域の多くは、制度や技術を「現地化」する試みがありながらも、総じてそれらが困難を伴ったこと、3)「現地化」への障害は、森林を自然物としてみる側面においてよりも、政治空間としてみる側面において顕著に現れており、しかも時代が下るにつれて、後者の重要性が増してきたことなどが明らかになってきた。一連の分析はまだ完了していない。来年度中に更なる検討を進めていきながら、図書や論文として出版していく予定である。
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