本年度は、ブータン西部地域に焦点を当てて、トウガラシの取引と食料安全保章について、2回の現地調査を行い(11月19日-12月6日、12月15日-12月25日)、また、ロンドン大学で意見交換を行った(2月5日-2月27日)。ブータン西部地域では、標高差に伴う収穫期のずれを利用したトウガラシの物々交換が歴史的に盛んに行われていること、それと同時に、現在では、市場での現金での取引も盛んになってきていることが明らかになった。これは、同地域の多くの農民にとって、市場へのアクセスが最近のインフラの整備により、容易になっていることと関係している。また、貧しい(特に所有する土地面積が小さい)農民の中には、食糧不足を補うため、比較的裕福な農民から米を借り、それが返せないために借米が累積し、貸し手に労働を提供しなければならない状況に置かれている家庭がいくつもあることが判明した。しかし、該当の農民は、食料の不足した時期に食料を提供してくれるという肯定的な面も指摘していた。同様の状況に置かれている農民はブータン全体で多くおり、深刻な問題であるという示唆があった。セーフティ・ネットとして機能している仕組みがいつもポジティブな結果だけをもたらすものではないという意味をもっと解釈される。 ブータン政府はコミュニテイレベルでの食糧安全保障を高めるために、換金作物の栽培を推奨するとともに、市場へのアクセスを容易にするためのインフラを整備していく方針であることが、明らかになった。 ロンドン大学では、ポチエ教授、ラーケ教授から、特に、借米の利子の返済として労働を提供しなければならない状況については、南アジアで広く調査されている"bonded labour"と関連させて議論することが可能であるかもしれないという助言を得た。
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