本年度は、ブータン中央部と東部において、草の根のレベルでのトウガラシの取引の量的、質的変化について、ブータン農業省の全面的な協力を得て、フィールドワークを行った(平成21年11月-12月)。主に明らかになった点は、1.トウガラシの取引において、物々交換が重要な役割を果たしている地域がかなりの割合で存在している。特に、東ブータンのタシガン県北部において顕著であった。2.トウガラシの取引で、以前盛んに行われていた物々交換が衰退した地域の多くでは、人びとがその理由を、道路網の発達とそれに伴う商店の増加と理解している場合が多くみられた。3.農村部の多くの地域で、トウガラシの入手について、現金の取引と物々交換の特徴をよく把握し、トウガラシを質・量ともに十分に確保しようとする人々の工夫が確認された。 更に、ブータン政府と援助機関による草の根レベルの食料安全保障を高めるための取り組みについては、ブータン政府が、穀物だけではなく、野菜、肉類、乳製品などをふくむ包括的な食料安全保障の概念と枠組み作りに取り組んでいることが明らかになった。また、そこには、FAOなどの国連機関も積極的に協力していることが明らかになった。 借米の負担に悩んでいる農家に対して、VASTという現地NGOがライス・バンクという取り組みをしており、同NGO職員の同行を得て、現地調査を行った。対象となっている農家の人々からの聞き取り調査から、ライス・バンクが着実に成果を上げていることが明らかになった。その一方で、対象村のなかで、誰がライス・バンクに参加するか、しないかについて、議論が巻き起こることも理解できた。 更に、平成22年2月には、ロンドン大学東洋アフリカ学院を訪問し、南アジアの農村変容についての研究者や、食料安全保障について研究している人類学者と、意見交換を行った。更に、英国をはじめとする援助機関による食糧安全保障への取り組みについて、資料収集を行った。
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