本年度は、本研究の最終年度にあたることから、研究のまとめと成果発表を重点的に行った。 8月15日から21日にブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)で行われた第12回国際チベット学会で、論文を発表するとともに、本論文をもとに、本研究の主要なカウンターパートであるブータン農業省リサーチカウンシルのタシ・サンドップ博士と共著で、ブータンの農村におけるトウガラシの取引と食料確保の状況についての論文を執筆した。本共著論文は、近く刊行される見通しである(下記参照)。共著論文とすることで、本研究成果の現地還元と、ブータンの食料政策への一定のインパクトを担保することができたと考える。 本研究の主な成果は、現在まで行われてこなかったブータン農村部での共同体内における経済格差の問題に焦点をあて、どのようなメカニズムで経済格差が生じているのかを分析した点である。また、現地NGOによる共同体レベルでの食料確保への取り組みを実践の例として取りあげ、自立を目指した援助は、主体者自身に意思決定権を持たせることはもちろんのことではあるが、それに加えて、行政や、コミュニティの年長者や長(そして本件の場合には当該NGO)といった関係する人びとのコミットメントが、プロジェクトの成功の重要な要素のひとつになっていることが見出された。 今後の研究では、共同体内での格差の要因を、土地所有の形態、共同体内での労働の取り決めに焦点をあて、今回の研究を更に深めていきたい。
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