インドネシアのイスラーム主義武装闘争派であるジャマーア・イスラミヤ(JI)および2008年結成の新組織ジャマーア・アンソール・タウヒード(JAT)、イデオロギー的な急進派である解放党、穏健派の合法政党である福祉正義党を中心とした継続的なインタビュー調査および資料収集を進めた。同時にこれまでの研究成果のアウトプットとして国際会議での発表を行い、東南アジアおよび欧米の研究者からのフィードバックを得た。 武装闘争派については、インタビュー調査の成果や未発表の著作など独自に入手した資料も利用しつつ、内外の武装闘争イデオロギーの歴史的系譜を明らかにするとともに、ネットワーク論を用いた分析、映像による宣教活動についての分析を行った。福祉正義党についても、映像や出版物による宣教活動を中心に分析を行った。いずれも単に運動や活動の内容を検討するだけでなく、社会におけるその位置づけを明らかにし、その市場戦略について詳細に検討した。以上の分析は、インドネシアのイスラーム運動についての既存の分析枠組みに修正を迫り、新たな鳥瞰図の提示に至るものであると確信している。もっとも新たな分析枠組みを提示するためには政治運動の分析のみでは不十分であり、2010年にJICA研究所が行ったインドネシア、マレーシア、フィリピン、タイにおける世論調査の成果も利用し、グローバル化時代におけるムスリム社会の変容を統計的な裏付けたうえで、作業を行っているところである。
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