本研究の目的は、インドネシアにおけるイスラーム主義急進派がなぜ暴力的な行動を採るのか、その理由を明らかにすることにある。より具体的には、第一に急進派の何が急進的であるのか、その運動の目的とイデオロギー的、組織的背景を明らかにする。急進的なイスラーム運動はごく少数派であるが、社会的政治的なインパクトは非常に大きく、またアメリカにおける911同時多発テロ事件に代表されるように「グローバルな」広がりを持つ運動である。したがって、第二にインドネシアのイスラーム政治運動史および世界的なイスラーム主義潮流における位置づけを明確にする。第三に運動に直接関わりのない「一般の」市民やメディアにおける急進派についての知覚、反対に現代社会に対する急進派の知覚と暴力の関係について明らかにする。急進派はあくまで当該社会に埋め込まれた存在である。急進派が台頭する社会的政治的な背景の分析は欠かすことが出来ず、また急進的な運動は社会から一定の支持を受けたり反対に孤立する場合がある。 本研究は急進派ただそのものに注目するのではなく、思想・歴史・政治および社会・文化変容の文脈に位置づけることによって、現代インドネシアあるいはより広くムスリムが多数派を占める社会を照射しようというものである。
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