本研究の目的は、専門技術労働者の移動は非熟練労働者の国際移動とは異なる性質をもつという前提に立ち、「アフリカ-南アフリカ-イギリス」および「フィリピン-イギリス」という2つの地域ブロックにおける看護師を中心とする医療労働者の国際移動の特質を抽出するとともに、医療労働者の国際移動が送り出し国と受け入れ国の双方にとって、どのような社会的・経済的影響を及ぼすのかを明らかにすることである。中間年に当たる今年度は、ガーナを事例に、1990年代後半以降の看護師の国際移動について概観し、ガーナ国内における医療人材供給への影響を分析した。ガーナ人看護師の最大の受け入れ先となったのは、1997年に労働党政権が誕生し、国民保健サービス拡充のため外国人看護師の雇用斡旋を積極的に行うようになった英国である。ガーナ人看護師の英国への出稼ぎは2002~2004年をピークに減少しているが、2000年代初頭に急激に看護師の国外流出が増加したことで、同時期にガーナ国内ではアクラなど都市部の大病院を中心に深刻な看護師不足が起こった。それに対してガーナ政府保健省は看護学校の定員増加と准看護師的な医療スタッフの育成を拡大することによって対応し、2007年には看護学校の入学者が1999年の3.6倍に増加した。だが、2000年代半ば以降、英国の医療人材政策の転換により、外国人看護師の英国への出稼ぎが困難になったことでガーナ人看護師の国外流出はペースダウンした。その結果、現在では看護師不足よりも国内における看護師の待遇を維持しながら、増大する看護学校卒業生のために雇用を創出するという点にガーナの医療人材政策の課題が変化していることが明らかになった。
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