今年度は、1.ジンバブウェを事例に、看護師の国際移動の特質とジンバブウェ国内における医療人材供給が抱える課題について考察するとともに、2.英国におけるフィリピン人看護師を対象にその多段階的国際移動過程における意志決定要因に関する論文を執筆した。 1.ジンバブウェは、1980年の独立後、主として90年代初頭から国内経済状況が悪化し、2000年以降は政治的・経済的混乱が深化したことを背景に、国外に大量のジンバブウェ人が流出することになった。医師や看護師を中心とする医療労働者は人材流出の中心をなし、行き先も英国、南アフリカ、ボツワナ、オセアニアなど多岐に渡った。南アフリカやガーナとジンバブウェが異なる点は、ジンバブウェにおいては、英国による組織的な外国人看護師雇用斡旋が終了した後も、国内の経済的混乱が悪化し続けたため、オセアニアや南部アフリカ諸国などへの看護師の流出が続いたことである。2009年2月に連立政権が成立して以降、米ドルを中心とする多通貨制度が導入されたことでハイパーインフレは落ち着き、公務員への給与支払いが再開された。公的な医療サービスは危機的な状況を脱することはできた。しかしながら、流出した人材がジンバブウェに戻れるような状況には至っておらず、長期的な政治的安定が医療サービス復興の鍵を握る。 2.フィリピン人看護師の国際移動は、送出し国と受入れ国という2国モデルに還元できない多段階に渡る移動を行う点に特徴がある。移動に関する意志決定が、さまざまな受入れ国の移民政策の変化に敏感に反応して行われていることを、英国におけるフィリピン人看護師を対象に実施したアンケート調査をもとに明らかにした。
|