1990年代末から2000年代半ばにかけて、「南」の国々から先進国への看護師の国際移動が急増した。主たる目的地の一つは、国民保健サービスの拡充のために外国人看護師の大規模な雇用斡旋策を採用したイギリスである。本研究では、過去20年間にイギリスを中心とする先進国に看護師を送り出したアジア、アフリカの4カ国(フィリピン、南アフリカ、ガーナ、ジンバブウェ)を取り上げ、各国からの看護師の国際移動の概要(規模、傾向、行き先など)を叙述するとともに、看護師の国際市場の急速な拡大がこれら4カ国の医療保健システム、とりわけ医療人材供給にどのようなインパクトを与えたのかを明らかにした。看護師の国外流出の動向にはイギリスの政策が著しい影響を与えており、1990年代末以降の看護師の国際移動を牽引してきたのは先進国社会の労働需要とそれを満たすための移民政策というプル要因であること、これら4カ国では国際移動によって看護師不足が深刻化したものの、その後の看護学校の増加や一定期間の国内での労働を義務づける政策の導入などにより、2000年代末には看護師の充足率が改善したことなどが明らかになった。
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