本研究の目的は、現代中国において産業構造の変化が人々にどのような社会的地位の変化をもたらしたかを明らかにすることにある。特に、都市化・工業化と共に縮小する農業部門の出身者がどのような地域間・産業間・職業間の移動を実現しているのかに注目する。労働市場の自由化は「農民工」に代表される農村出身者の自主的な地域間移動を実現したが、彼らは社会的地位の点ではどのような変化を実現しているのだろうか。本年度はこれまで3年間の調査結果の取りまとめを行った。 年度当初の研究実施計画では、研究成果の取りまとめにあたって、これまでの調査の中でその重要性が浮かび上がってきた、職業高校と農村労働市場の展開について、今年度補足調査を実施するつもりであった。ところが、研究代表者の健康上の問題のため、本年度は中国への出張及び農村調査を実施することができなかった。そのため、現地調査を断念し、統計分析ソフトを購入して前年度調査のデータ分析を行い、これまでの研究成果のとりまとめを行った。 研究の成果としては、中国の大多数の農村出身者の間では、「都市への融合」ならぬ「出稼ぎの長期化」というべき仮の生活形態の恒常化が起きていることが指摘された。これは、就業空間の広がりにも関わらず、社会移動が実現していないことを示している。ただし、一部の少数の農村出身者に都市における自営業者、地元へのUターンによる起業者などの上昇的階層移動者が見られていることは社会移動としては注目すべき事例である。農村の労働市場の展開が農村出身者の社会移動の多様化に貢献している一方、教育の世界では職業高校が新たに、農村出身者の社会移動の可能性を制約する方向に機能していることも示唆された。
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