研究概要 |
平成21年度は、調査目的の達成のため、A県内3地域における7施設の特別養護老人ホームに従事する女性ケアワーカー25名を対象とした半構造化面接法によるインタビュー調査を実施した。調査では、女性ケアワーカーの基本性および性役割特性を質問紙を用いて把握するとともに、一人約40分程度の個別インタビューを通して、現在の職業に就業した経緯や現在の仕事に対する捉え方、将来のキャリアプランなどについて、お話を伺った。スケジュールの都合から、フォーカス・グループインタビューの実施は見合わせた。また、調査協力いただいた施設に依頼し、施設職員のキャリア形成に対する考えを尋ねるため、施設長へのインタビューも実施した。 収集したデータについて、質問紙による調査データはパソコンに入力して整理した。インタビューデータは、内容分析を行うための手続き・準備として、(1)データを反訳データとしてテキスト化し、(2)テキスト文書を整理した。本調査によって収集されたインタビュー時間の総数は16.6時間、テキストデータは338,527字であった。現在、(3)コード化・概念カテゴリー作成を進め、より詳細な分析を検討している段階である。 調査協力者25名の特徴は、平均年齢は36.16歳であるが、10代~20代前半と40代後半以降に二極化しており(M字型)、約8割が介護福祉士資格を有している。学歴は高校から大学まで分散しており、就業した経緯は福祉系高校や専門学校・大学等からストレートで就職したものは9名にすぎず、他職種からの転職(12名)や主婦業がひと段落してからできる仕事として始めたという者(7名)も多く見られた(複数回答)。先行研究は、男性と比較して女性ケアワーカーでは職場内キャリアよりもむしろ専門職キャリアに関心が強いことを指摘していたが、本調査では女性ケアワーカーの9名(36%)が職場内キャリアにも強い意欲を表していることが示された。また、専門職としてのキャリア形成を目指すものが必ずしも福祉系学校出身者であるとは限らず、主婦業や他職種、アルバイト業からの参入者にも多い。「求人募集が多かったから」「家事の延長としてなんとなくできるかと思った」と述べられているように、資格や仕事経験を持たない女性(主婦など)が参入し、経験年数を重ねることで資格や役職を得て、やりがいやチャンスを見出せる労働市場になっていることが明らかにされた。同時に、10代の社会経験の浅い若年女性が非常に不安定かつ安価な労働者として勤務している状況も垣間見えた。本調査は、近年の深刻な介護人材不足と社会不況が影響し、労働市場において不利な立場になりやすい女性労働者が、安価な介護労働力を提供できる人材として、女性労働と見なされているケアワークに活用されているというジェンダー構造をも浮き彫りにした点で重要な意義を有する。
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