本研究では、ジャック・デリダの『条件なき大学』(未來社、2008年)の翻訳紹介を皮切りに、デリダにおける哲学・教育・大学の問いを彼の脱構築思想に即して解明するため、次のような研究活動を展開した。1)デリダの大学論を信と場の問いから読み解いた。プラトン『ティマイオス』の「コーラ(場)」分析を、デリダ自身の教育現場論として読解する道を拓いた。2)フランス、韓国、アメリカ、アルゼンチンなどで国際会議に参加し、デリダの思想を踏まえた発表をおこない、各国の研究者と哲学、教育、大学に関する今日的問題を議論した。大学の近代的な理念「研究と教育の統一」が「管理運営の論理」によって統制される世界的な状況下で、効率性や卓越性の論理の分析、人文学の現場性の探究、学術と評価の関係の考察をおこなった。3)デリダが創設した国際哲学コレージュに関するドキュメンタリー映画「哲学への権利--国際哲学コレージュの軌跡」を製作し、日本・アメリカ東海岸・フランス各地で上映と討論会をのべ26回開催し、脱構築と教育の関係をめぐって議論を深めた。討論会では毎回異なる討論者とともに、現在の資本主義下で人文学や哲学をいかなる制度として構想し実践すればよいのかが示された。
|