22年度は、現代における認識論の変遷を概観し、どのように「知識の概念」が柔軟な物になっていたのかを分析した。20世紀初頭の感覚与件論をはじめとする知識論は、デカルト的な強い知識概念に基づくものであったが、その感覚与件論の挫折と、自然主義的認識論の流行が、知識概念を柔軟なものへと変化させていく様を確認している。自然主義認識論は、いわば哲学と自然科学を連続的な知の営みと見る立場であるが、いわゆる「規範」の問題を巡っていくつかの立場に分類されるのが一般的である。その中でも、クワイン流の「自然化された認識論」は、知識とはどのようなものであるのかという問題よりも、むしろどのようにして知識が生み出されるのかということこそ認識論の使命であると考える点で、伝統的な認識論と一線を画している。自然主義的認識論者の中にも、このような極端な自然主義を否定する者は多いと考えられているが、20世紀に大きな影響を及ぼした「心の哲学」研究は、このクワイン的な認識論との影響関係も強く、認識論と心の哲学の境界線を曖昧なものとし、これが知識概念の軟化に寄与しているという分析を本研究では行っている。また、このような知識概念の軟化は、すでに20年度、21年度に行った近代における知識概念の軟化と類似した構造を持つことも明らかにした。
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