本年度の研究成果として、『平田篤胤-霊魂のゆくえ』(講談社「再発見日本の哲学」シリーズの一つ)を出版したことが挙げられる。同書に、本年度の研究成果を盛り込むことができた。また、22年度研究計画の一部を先取り的に研究し同書に収めた部分もある。 同書は平田篤胤の死後霊魂論について、古代日本の「死者」の思想と対照させながら考察を行い、その倫理思想史的意義を明らかにしたものである。篤胤が日本神話における「死者」観をふまえ、火神(ホノカグツチ)の出産場面に特に注目した思想家であり、火神にこそ生命および死の根源を見ていたことを明らかにした。また篤胤が『古事記』的なイザナミ神に由来する死の穢れを否定していること及びそれに伴って穢れの根源が篤胤においては見失われていることを明らかにした。このことは、篤胤における霊魂の重視及び肉体(死体・物)の軽視と連動するものであり、逆にいえば古代日本の「死者」の思想においては、肉体(死体・物)が重視されているということが明らかとなった。さらに同書において、篤胤が古代以来の仏教における「死者」観を覆そうと試みていたことを、仏教思想をふまえつつ明らかにした。 本年度の研究成果のうち、『日本霊異起』の「死者」については論文を準備中であり、『思想史研究』10号(2009年9月刊行予定)に投稿予定である。 古代日本の「死者」に関する文献を収集し、熊野三山・花の窟等への現地調査を行った。
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