本年度は、ミュンヘン・ゲッティンゲン学派の実践哲学の具体的内実を明らかにするために、フォン・ヒルデブラントの行為の哲学の考察を行った。フォン・ヒルデブラントは、フッサールの弟子であり、彼に師事しながらも、独自の行為論を体系的に展開している。とりわけ「道徳的行為の理念」という論文では、行為の概念の規定から始まり、行為がいかにして「善さ」の担い手となりうるかを検討している。本研究では、フォン・ヒルデブラントの実践哲学を「善さの担い手」をめぐる問題という観点から解明し、その成果を『フッサール研究』に発表することができた。これまでフォン・ヒルデブラントの研究は国際的にも数少なく、とりわけ、・現象学や現代哲学の文脈において扱われることはほとんどなかった。本研究はその意味で貴重な成果といえる。 また、日本本現象学・社会科学会では、「現象学的行為論の可能性」と題するシンポジウムを開催することができた。そこでは、筆者のこれまでの研究成果を踏まえて、フッサールの行為論を紹介する発表を行った。学会のシンポジウムにおいて現象学的行為論というテーマが掲げられたことは、これまでにほとんどない。そうした意味で、このシンポジウムそのものが大きな価値をもつだろう。本研究にとっては、ハイデガーやシュッツという近隣領域の研究者と交流できたことは大きな成果であった。
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