本年度は、ミュンヘンゲッティンゲン学派に多大な影響を与えたフッサールの倫理学に関する包括的な研究と現象学派における倫理学の意味と可能性を明らかにする研究を行った。 具体的には、これまでフッサールのゲッティンゲン時代とフライブルクの倫理学の相違を明確化してきたが、「生き方について哲学はどのように語るのか現象学的還元の「動機問題」を再訪する」(『現代思想』)においては、フライブルク時代の倫理学を「生き方」をめぐる倫理学と特徴づけることができた。この研究は、フッサールの倫理学と現代の英米系の行為論の接点をさぐりょうとするものであり、フッサールの「生の価値」という概念が、B.ウィリアムズやCh.テーラーの重視する価値概念・(厚い価値、強い評価)などに通じる可能性を明らかにした。 さらには、日本倫理学会第60回大会においては、現象学的倫理学についてのワークショップ(「生と責任をめぐって-現象学的倫理学の現在-」)を開催して、ハイデガー、レヴィナス、フィンクらを含めた現象学派の倫理学についての意見交換を行った。その際には、「責任」という概念が現象学派のなかでどのように考察されているかを明らかにし、自由な主体性を想定している近代の責任概念の見直しというモチーフが取り出された。これまで、現象学的倫理学という観点において現象学全体を概観するような試みはあまりなされておらず、このテーマによる今後の研究の基盤となるものである。
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