研究課題
本年度は次の二つの課題を検討した。第一に、アフォーダンスという行動資源を利用する生物のメカニズムについての哲学的検討である。計算論的アプローチでは、感覚器官をとおして入力される不十分な刺激や手がかりから環境についての知識を構成し、この知識に基づいた行動指令を出力すると考えられている。これに代わる考え方として、アフォーダンスを特定する生態学的情報を精査しながら、アフォーダンスに対応する行動を機能的に作り出すような知覚-行動のメカニズムが探られた。生態学的な実証的研究を調査することから明らかになったのは、アフォーダンスは行動をメカニカルに指定(特定)するのではなく、機能的に指定することである。これは課題特定性もしくは機能特定性と呼ばれる生物行動の特徴である。それは特定の課題を達成する手段(行動)が多様であることを意味する。Reedの著書と論文を参考にしたDarwinによるミミズの行動研究の見直しからも機能特定性という特徴を抽出することができた。第二に、脳を含めた神経系の機能を検討した。伝統的に知覚と行動の基本構造を神経系と結びつける場合には「感覚神経-処理指令中枢-運動神経」という機能的な区別がそこに重ねられる。しかし行動が、解剖学的・生理学的な単位とその複合によって指定される機械的な「運動」ではないとすれば、神経系の役割はそのように単純には解釈できない。むしろ神経系は、生態学的情報と機能的行動との連携を作り出すような身体の姿勢と運動を調整する役割を担っていると考えられる。さらに神経細胞の可塑性(学習性)を考慮し、知覚一行為が行われる個別の場面において生態学的情報とアフォーダンスからの選択圧により神経細胞の結線連絡の数と強度が選択されるという見方も示唆された。
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大航海 69
ページ: 100-108
現代思想4月臨時増刊ダーウィン vol.37, no.5
ページ: 136-153
生物の科学遺伝 vol.62, no.5
ページ: 45-49