研究期間の最終年度となる本年度は、昨年度に引き続き、研究代表者が所属する部局の図書館には備えられていない生態心理学関係図書や国際生態心理学会発行の専門学術雑誌を購入し、関連論文、関連著書・雑誌の資料の購入整理、調査を行うとともに、研究計画において示した、認識と行動への生態学的アプローチの三つの側面((1)アフォーダンスの存在論、(2)環境情報論、(3)知覚-行動システム機能論)すべてにわたる検討を行った。(1)については、生態心理学者のなかでは主に三つのアフォーダンス理論(傾向性説、関係創発説、資源説)があることを明らかにし、相互に比較検討することで各説の優劣を分析した。アフォーダンスは生物の行為のあり方やその存在と相関する環境性質と見なされるため、その存在は環境と生物との存在によって創発する関係的性質や、環境の潜在的性質(傾向性)であると解釈される傾向にある反面、生物によって利用される前から生物の存在とは独立にあらかじめ資源のようなかたちで存在していると解釈する立場もある(資源説)。(2)と(3)については、ダーウィンによるミミズの穴ふさぎ行動の研究から、生物行動がアフォーダンス(環境の機能的性質)を対象として行なわれていることが示せることを明らかにし、生物行動が機能相関的なかたちで組織化されることを明らかにした。(1)・(2)の一部と(3)については、心の哲学で問題になる表象ハングリー問題に対して生態学的アプローチがどのような回答を示せるかを検討し、生態学的アプローチの反表象主義が「環境の豊かな情報性」と「生物身体が機能システムであること」を根拠にしていることを明らかにした。現在、これら今年度の成果を含めた昨年来のすべての成果を『知覚経験の生態学』(約500頁)として、勁草書房より単行本として発表すべく準備を進めている。当該著書は2010年中に刊行予定である。
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